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短編『雪と猫』

執筆者の写真: 白猫白猫

 みなさんこんにちは。

小説担当の白猫です。今回は半年ほど前にカクヨムさんに投稿した短編小説を少し修正したものを公開しようと思います。


 それでは、寒い冬に一人の大学生と一匹の猫が奏でる季節外れの短編、『雪と猫』をお楽しみください。



――――


 寒い


 吐く息も白くなる一月、この冬で初めての雪が降った。

実家を出て、大学に進学してから3年。

90分の講義にも、週4のバイトにも慣れた。

それでも、この冬の寒さと雪には慣れない。

バイト帰りの夜道をため息と共に歩きながら、高校の時に想像していた大学生が、どれだけ甘かったか思い知る。


 実家にいた頃は、大学生になったら勉強なんてほとんどせずに遊べると思っていた。

だけど進学してみると、レポートはあるし、バイトしなきゃ生活だって危ういくらいだ。

遊んでる暇だってほとんどない。


 それに、そうやって忙しなく過ごした後で、帰った家に誰もいないのがこんなに寂しいとは思わなかった。

耳にタコができるくらい当たり前のように飛んできた「お帰り」の声も、帰るのに合わせて作られた温かい食事もない。

ドアを開けた先にあるのは、最低限の物だけがある飾り気のない部屋だけだ。


 そんなことを考えていると、マンションに帰るのも憂鬱になってきた。

はぁ、とため息を1つついたとき、おかしなものが視界の端に映る。


『ひろってください』


 拙い文字でそう書かれた段ボールの中に、弱々しい目でこちらを見つめる猫が一匹。

宙を舞う雪のように真っ白な毛を持った、可愛らしい猫だ。


 ひどいことをするやつもいるもんだ。

こんな子猫を捨てるなんて。

捨てるならせめて春にすればいいのに。

今までぬくぬくと過ごしていた家を、こんな寒い日に追い出す必要もないだろう。


 だけど、毎日大学やバイトで家を空けている俺には、この子を拾ってやることはできない。

せいぜいできるのは、今持っているカイロを、段ボールに敷いてある毛布の下に入れてやることくらいだ。


「ごめんな、こんなことくらいしかできなくて」


 明日動物愛護団体にでも電話してみるか。

猫を置いてマンションに帰る。

ただでさえ憂鬱だった気分がさらに沈んだ。

あの猫は大丈夫だろうか。

鍵を回してドアを開ける。


「ただいま……」


 なんとなく、中に誰もいないと分かっていてもそんな言葉が口からこぼれる。

いつもどおり、静かな部屋。

暖房もついていない、外とほとんど変わらない寒い部屋。



 ミャオ。

俺の声に反応するように、足元から聞こえた鳴き声に驚いて下を向く。

先ほどの真っ白な子猫が足に顔をすり付けながら鳴いていた。


「こんなとこまで着いてきたのか」


 足首から、かすかな暖かさが伝わってくる。

思わず頬が緩む。


 まあ、今からさっきの場所まで連れていくのもめんどくさい。

それにせっかくついて来てくれたんだ。

ペット禁止の物件でもないし、俺がいない間のことは大屋さんや友達に相談してみるか。

エサはコンビニでも売ってるし、最近はシフトも増えたからお金もなんとかなるだろう。

そんなことを考えていると、少し楽しくなってくる。


久しぶりに、一人じゃない部屋。

猫一匹分狭くなった部屋は、いつもより少しだけ温かく感じた。



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