お久しぶりです。小説担当の白猫です。
さて、ブログの更新を任されたものの、改めてブログってどんなものを書けばいいんだろう、と一週間ほど放置してしまいました。
ごめんなさい……
ブログに書いてほしいこと(ex.自己紹介、日常のお話、作品のお話……)があればぜひコメントください。
と、いうわけで今回は私が小説を書いているるカクヨムさんに今朝投稿した短編小説をこちらにも掲載しておきます!
この小説は百合ではないのですが、作者の好きな物語の構成になっているので自己紹介にはちょうどいい作品かと思います。
『路傍の花』
「ねぇねぇ、暗い顔してどうしたの?」
放課後の教室で、一人窓の外を眺めたまま帰ろうとしない幼なじみに声をかける。
だけど、彼は私の声が聞こえないみたいに無視をして気だるげに立ち上がって、ゆっくりと教室を出ていく。
今朝からずっとあんな感じだ。
「うーん。なんか怒らせるようなことしちゃったかな?」
少し昨日のことを思い出してみよう。
えっと確か……
昨日も今日みたいに綺麗な夕陽だったっけ。
そうそう。昨日あいつに告白されたのよね。
――――
「和人《かずと》、改まってどうしたの?」
「ああ、恵《けい》、その……」
いつもからかってくるあいつにしては珍しく歯切れが悪い。
落ち着いた低い声であいつがあたふたしてるのが面白くて、私はいつものお返しにからかってやることにした。
「ふふ、和人君。さては私に惚れたな?」
「なっ!?……はぁ、そうだよ」
「ふぇ?」
あいつは一瞬驚いた様子で顔を赤らめて、だけどすぐにいつもの調子に戻った。
というかこいつ今認めた?
びっくりして変な声出ちゃったんだけど。
多分こいつも私のことからかってるんだな。
「あっ、言っとくけど冗談じゃないから」
「なんでわかるのよ!」
「なんとなく」
結局いつも通り、こいつのペースになっちゃった。
「今までずっと一緒にいて、俺が恵を幸せにしたいって思ったんだ。付き合ってくれ」
「……重い!プロポーズか!」
「ダメか?」
「ダメ、じゃないけど……ほんとに私のこと好きなの?」
「ああ、好きだ」
今まで幼なじみだからあんまり気にしてなかったけど、確かにこいつ結構良い男なのよね。
声もちょうどいいくらいに低くて落ち着くし、普段はからかってきてばっかりなのに普通に優しいし。
言われて見れば、そうね。
ありかも。
「じゃあ、付き合う?」
「恵がよければ」
さっきまでの勢いはどこ行ったのよ。
「じゃあ、よろしく」
――――
それであいつと付き合って、一緒に帰ったんだよね。
それからまた明日って別れて、今日……
やっぱり私悪くないじゃない!
って、あいつ私を置いて帰ったの?
むぅ。ちょっと追いかけて謝らせないと。
一応、あいつの彼女なんだし。
ほっとかれるのはいい気しないもん。
教室を出てしばらく歩いたらあいつの背中が見えた。
すぐに追い付いて横に並ぶけど、相変わらず和人は私を無視したままスタスタと歩いていく。
学校を出て、いつもの帰り道。
だと思ったけど、途中で和人が道を変えた。
「そんなに私に着いてこられるのが嫌?」
その質問にも応えないこいつに付いて歩いていると、馴染みのないお店の前にたどり着いた。
「お花屋さん?ねぇ和人――」
「あっ!和人君!」
ん?誰この女の人。
すごい美人なお姉さんなんだけど。
「雪音《ゆきね》さん、いつもすいません」
「気にしないで……それより、もう一年たったのね」
「……そうですね」
「まだ起きないの?」
「……実は昨日」
和人の知り合いで病気の人がいたのかな?
でも昨日って、私に告ってきた日だよね。
だからずっと元気なかったのか。
「和人君、大丈夫?」
「ええ……花束、ありがとうございます」
和人は雪音さんから、菊によく似た薄紫色の花で出来た花束を受け取ってお店を後にした。
あの花は、シオン……だったかな?
いつも通りの帰り道に戻った和人の横に並んで、とぼとぼと歩く。
「ごめんね、和人。和人の周りで誰か亡くなったって知らなくて」
やっぱり返事はない。
「昨日和人に告白されて嬉しくて、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」
和人は相変わらずうつむいたまま歩いている。
前を見ると、いつも和人と別れる交差点だ。
距離なんて変わらないねはずなのに、和人と話せないだけでなんだかすごく長い道のりに感じた。
「じゃあ和人、また明日、ね」
しかし和人は、私の家に向かう道に曲がって、すぐに足を止めた。
「ごめんな」
そう言いながら、和人はゆっくりと膝を着く。
彼の前にあるのは、たくさんの花が供えられた一本の電柱。
「俺がすぐに気づいてたら、あんな――」
何か思い出したのか、和人は言葉をつまらせて静かに涙を流した。
「和人……」
彼の涙を拭おうと差し出した私の手は、すっと彼の頭をすり抜けて空を掴む。
「ごめんな、恵」
涙ながらの和人の声で、あの日何があったのか思い出した。
そう、ちょうど告白されて一緒に帰って、別れ際のことだった。
――――
「今日からあの和人と恋人同士かぁ」
「どういう意味だよ」
和人が少し口を尖らせる。
「ううん。ただ実感無いなって思っただけ。ちっさいころからいつも一緒だったし」
「そういえばそうだな。家が隣って訳でもないのに、なんでかよく遊んだよな」
「うん。今思うとほんとに不思議だ」
「どっちから声掛けたんだっけ?」
「えっと、確か――」
想い出話に花を咲かせながら歩いていると、すぐにいつもの交差点に着いた。
こいつと話してると、いつも以上に時間が早く流れる気がする。
「じゃあ、また明日だね」
「ああ。また明日」
お互い手を振りあって背を向ける。
「恵っ!」
和人の焦った声に振り返ると、私の目に猛スピードで突っ込んでくるトラックと、泣き出しそうな和人の顔が映った。
――――
そこからは覚えて無いけど、そういえば今日も気づいたら学校にいたんだ。
というか、こんなことなんで忘れてたんだろう。
私の目の前には、花束を供えてまだうずくまっている恋人がいる。
「ほら和人、もう帰るよ」
私の声が届かないのも、彼の手を引けないのも、もう分かってる。
今さら悲しくて、少しだけ景色が滲むけど。
「いつまでもこんなとこいたら、おばさん達も心配するじゃない」
私のことをここまで思ってくれることは嬉しいけど、いつまでもこのままじゃいけない。
私は和人の正面に回り込んで、膝を抱えて座る。
「ねぇ和人、まだ私のこと好きなの?」
聞こえるわけない。
だからいつものお返しに、思いっきりからかった口調でそう言ってやる。
「……恵?」
触れるわけが無い。
だから生きてる時はまだ、恥ずかしくて出来なかったけど、愛しい恋人の頬をそっと撫でる。
「恵……そこに、いるのか?」
聞こえるはずもないし、見えるわけもない。
だけど、和人はそっと自分の頬に触れながら正面の私を見つめる。
「恵、ほんとにごめんな」
謝らないでよ。
和人らしくない。
「からかってばっかでごめん」
今さら謝ったって遅いんだから。
「せっかく付き合えたのに、何も出来なくてごめん」
他の人と、思いっきり楽しんでよ。
ほら、雪音さんとかどう?
あの人美人だし。
「それと、ずっと一緒だと思ってたから、ちゃんと言えなかったけど――」
和人がそっと、涙を拭う。
「初めて会った時からずっと俺と一緒にいてくれて、ほんとにありがとう」
私こそ、ありがとう。
「俺、お前の分もちゃんと生きるから」
うん。私はゆっくり待ってるからさ。
思いっきり回り道してから来てよ。
それでまた、前みたいに話をしよう。
「おやすみ、恵」
うん。おやすみ。
もう側にはいてあげられないけど、頑張って生きて。
私はふと、彼氏からもらった最初で最後のプレゼントを見る。
「シオンの花言葉ってなんだっけ?」
道路脇の電柱の下で、菊に似た薄紫の花が風に吹かれて揺れた。
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